架空の森

ろくなことなんて、書けるわけない。そんな日常。

出しそびれたファンレター ~村山由佳『ミルク・アンド・ハニー』

 
突然のお手紙で大変失礼いたします。
14歳の時『キスまでの距離』を読んで以来、由佳先生の大ファンを自任している者です。先日出版された『ミルク・アンド・ハニー』を拝読し、衝動に身を任せて手紙を書き始めました。*1
 
「自分自身の体験を書けば、誰だって一本の恋愛小説を書ける」とかつて先生は書いておられました*2。『ダブル・ファンタジー』にしろ『放蕩記』にしろ、どこまでが自伝的なのかは存じ上げませんが、少なくない実体験がなければこんなものは書けないのではないかと思います。
『ダブル・ファンタジーから『ミルク・アンド・ハニー』までの三部作は「面白い小説」といった括りでは捉えられません。虚実ないまぜのスリルに引き込まれ、読み終わると体力や気力を根こそぎ持っていかれます。「感動した小説」は過去に何冊もありましたが、ここまで心を揺さぶられるものを読んだことはありません。
 
実をいうと非常に不安なのです。私には婚約者がいます。自分にはもったいないような魅力的な女性です。彼女のことは心から愛しています。が、『ミルク・アンド・ハニー』を読んで急に自信をなくしました。彼女の心変わりがというわけではなく、自分自身が彼女を愛し続けることができるかということを。また、自分が「省吾」や「大林」になってしまわないかということも怖いのです。
 
孤独を極めた学生時代に達観したはずの「人の心はなるようにしかならない」という考えは、公私ともに安定・充実した今となってたまらなく恐ろしいものだと気づいたのです。「永遠、という言葉を、じつは信じていない」*3と口にするのは簡単ですが、そこに身をさらし続けることが怖いのです。
 
………
 
最後に、『ミルク・アンド・ハニー』の続編が出てほしいという願いと、「奈津」に幸せになってほしいという願いは矛盾しているでしょうか。
一人の読者としましては、「おいコー」と同様に続編をいつまでもお待ちしております。

*1:ログを見ると2018年の6月18日に書いていた

*2:『キスまでの距離』のあとがきに載ってたと思っていたが、確認したらなかった。

*3:村山由佳『永遠。』108頁(2006年)講談社文庫