架空の森

ろくなことなんて、書けるわけない。そんな日常。

ワタシにとっての川原泉

 ブログ名の「架空の森」は、漫画家・川原泉教授の短編のタイトルから拝借している*1。川原作品のタイトル一覧を眺めて決めたため、タイトルそれ自体に深い意味があるわけではない。一読者として教授にあやかりたいだけというだけである。

 それなのにお恥ずかしい話だが、つい一昨日まで『川原泉傑作集 ワタシの川原泉』のⅢ・Ⅳ巻が発売されていたことを知らなかった。Ⅰ・Ⅱ巻で「短編読み切りを集めた作品集」として完結するものだと思いこんでいて、情報をすっかり見逃していたのだ。

「謀ったな白泉社め!短編集じゃなかったのかよ!このやろう本当にありがとうございます」

と心の中で叫びながら光の速さでポチり、今日ようやく手に入れることができた。

 

 

 

 

 

 身も蓋もないことを言ってしまえば、収録されている作品なんて全部持っている。しかし、4巻とも買ったことはまったく後悔していない。古本屋でまとめ買いした古いコミックス版の比率が高い身としては新しい装丁で読むと新鮮な気持ちで読み返せるし、友人にも押し付けオススメしやすくなった。また、人気投票の結果や読者コメントを見ると、多くの人がカーラ教授を、川原作品を好きだというのが伝わってきてすごくほっこりする(友人は皆「カワハライズミ?誰それ?」なので、同好の士がいるだけでも嬉しい)。

 そして巻末の「自作解説風インタビュー」、ファンとしてはこれを読むためだけに買ってもおつりがくるレベルである。こうしたインタビューやエッセイ*2を読むたびに、そこで垣間見ることができる教授の人となりこそが川原作品の魅力の源泉であると思うのだ。

 例えば、Ⅲ巻収録の『銀のロマンティック…わはは』について。このタイトルは作品の雰囲気を表現しきっている素晴らしいネーミングだと思っていたのだが、教授はこう語る。

 

 タイトルは予告カットを編集部に送るときに決めるんですけど、カットの上に鉛筆で「銀のロマンティック」だけ書いたら「わー、こっぱずかしい」と思って「…わはは」ってつけよう!って…そんだけです。自分を救うためにつけたです。

 

――「…わはは」なしには耐えられなかった?

 

 そうそう。

 

川原泉川原泉傑作集 ワタシの川原泉Ⅲ』(白泉社、2014)322頁

 

 

この感覚がたまらない。経緯を知って驚いた反面、理由がいかにも教授らしくて納得してしまった。

 もう一つ、傑作集を出すタイミングでのインタビューでのやり取りもすごく印象に残っている。

 

 とりあえず、何か食べれば元気出るじゃん、っていう感じはありますよね。人をなぐさめるのに、やさしい言葉をかけることもできるけど、まんがにするとすごくクサくなったりする。食べ物ってすごくいいアイテムだなって思います。泣いた後って、ごはんがおいしいよね。食べなくてもいいんですよ、別に。泣いている人の手に、握らせるだけでいい。「ほら、あったかい肉まんだよ」って。

 

花LaLa online「少女まんが家インタビュー 第2回 川原泉vol.2」2頁(http://www.hanayumeonline.com/interview/02_vol2_2.html )

 

 

 教授の魅力は他にいくらでも挙げることができるが(上手く言語化できないので、それはまた別の機会に)、私が惹かれる一番の理由は上に凝縮されているように思う。

 どの川原作品にもこの優しさが詰まっている。川原教授だからこそ描ける優しさが詰まっている。

 

 ところで、「~がある」シリーズの新刊はまだでしょうか。

 ふと、TYPE-MOONが2013年のエイプリルフール企画で、あるキャラにこう言わせていたことを思い出す。

 「いつまでも 待つと思うな ファンと新刊」

 いつまでも待つつもりではいますが、

 「気長に待つにもほどがある…わはは」

というのが正直なところですので、できるだけ早くお願いします。

*1:同作品は『美貌の果実』(1987年[花とゆめコミックス]・1995年[白泉社文庫])、および『川原泉傑作集 ワタシの川原泉Ⅱ』(2014年)に収録されている。

*2:エッセイ作品では、『小人たちが騒ぐので』(1998[Jets comics]・2002年[白泉社文庫])が特にオススメ。