架空の森

ろくなことなんて、書けるわけない。そんな日常。

finale,そして大団円

 月並みな話、「人生を変えた一冊」という大層なものを聞かれた時は何と答えるだろうか。真面目に、少し格好つけて答えるなら、アンドレ・ジッドの『狭き門』。もしくは、10年ほど前に読み、青春時代を村山由佳に費やすきっかけになった『おいしいコーヒーのいれ方 キスまでの距離』か。

 正直なところ、この手のパーソナルな質問は、優柔不断でなおかつ語りたがりの自分が前に出すぎてしまって、短い時間では上手く説明できずに消化不良になることが少なくない。だから、「好きな食べ物」の類いの質問はあまり得意でない。仕方がないので「カレー」と書いたことは何度もあるが、多分、カレーよりも好きな食べ物は他にいくつかあるような気がする。

 

 閑話休題、先ほどの質問に真剣に答えるなら――厳密には「一冊」と呼んでいいかわからないけれども――、Leaf(シナリオ:丸戸史明)の『WHITE ALBUM 2 ~introductory chapter~』を外すことはできない。だって、あれからもう4年以上も経つのに、私は「introductory chapter」の衝撃から未だに自由になれずにいるのだから。

 それなのに私は、続編「closing chapter」を3年前にやって以来、最終章の「coda」だけは手を付けられずにいた。この4年間、「introductory chapter」で描かれた悲劇と、ずっと考えた一つの解決策に拘泥していた。だからきっと、制作側から「正答」を提示してくれるであろう「coda」には手が出せなくなっていた。胃を荒らしたくない時期が続いていたというのも理由の一つだが、どう転んでも、逃避していたというのが正鵠を射た表現だろう。

 頭のどこかでそろそろけじめをつけるべきだと感じていたんだと思う。一応前作にあたる『WHITE ALBUM』、そして丸戸氏がシナリオを手掛けた『世界でいちばんNGな恋』。何気なく選んだこの2作品を一気にやり切った時、ようやくパンドラの箱を開ける決心がついた。

 

 全ルートを終えた現在、率直に言って、開けてしまったことと今まで開けなかったことのどちらを後悔すべきか、判断に迷っている。加えて、やっている最中に書きなぐったメモや、4年間ずっと温めてきたホワルバ2についてのあれこれ等々、書きたいことが山ほどあって頭がパンクしそうだ。全然何もまとまってなんかいない。

 だから、書きたいことを書き切るのは別の機会にとっておこう。なんたって一本道だった「introductory chapter」と違って「coda」は4つもEDがあるのだ。考えを形にするのにもう4年かかるかもわからん。今日のところは、積年の課題を消化できたことを素直に喜んでおくことにしよう。リストのてっぺんに君臨し続けたタイトルを葬って、これで積みゲー崩しも少しははかどることだろう。

 それと、「雪菜trueを最後にとっておけ」と3年前に教えてくれた雪菜派の友人に感謝しよう。だって、ダブルヒロインのくせに、かずさtrueと雪菜trueの差があまりに大きくて。もし前者を最後にとっておいたら、4年前よりいくらか丈夫になった胃でもエライことになってたんじゃないかって。かずさ派の私としては釈然としないものはありつつ、ハッピーエンド主義者の私としては、今晩なんとか眠れそうなことを上と合わせて喜びたい。

 

 「WHITE ALBUM 2」は名作だった。あと10年はこれを超える作品に出会えないんじゃないかって名作だった。……とは言いつつ、そういう作品に再来年あたりにはまた会えるんじゃないだろうか。だからこの業界からなかなか足を洗えない。積みゲーの山が崩れるのは、二重の意味でいつの日やら。